Blog Post

哺乳類はお尻で呼吸できる!?イグ・ノーベル賞からヒト第1相臨床試験成功までの軌跡

2026-09-21 推定読了時間: 5 分
哺乳類はお尻で呼吸できる!?イグ・ノーベル賞からヒト第1相臨床試験成功までの軌跡

もし救急救命室の医師が真剣な面持ちで「患者の血中酸素が限界です、直ちにお尻へ酸素投与を開始してください!」と言ったら、ドッキリ番組を疑うでしょうか? しかし、これこそが世界の救急救命を根底から変えようとしている最新医学の最前線です。

3行でわかるまとめ:身体に隠された非常用酸素ポート

東京医科歯科大学およびシンシナティ小児病院の武部貴則教授らの研究チームが開発した「経肛門的腸換気法(EVA)」。高濃度の酸素を溶かしたパーフルオロデカリン液体を直腸から注腸投与することで、肺を使わずに血中酸素を回復させるこの手法は、2024年イグ・ノーベル生理学賞に輝き、ついにヒト第1相安全性臨床試験を突破しました。

泥の中のヒント:ドジョウの腸呼吸

人間の肺は約3億個の肺胞を備え、その表面積はテニスコート半分にも及びます。しかし急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や重症肺炎に侵されると、肺胞は液体で満たされ、空気中の酸素を取り込めなくなってしまいます。

そこで武部教授が着目したのが、日本の水田や泥底に棲む「ドジョウ(Misgurnus anguillicaudatus)」でした。ドジョウは水中の溶存酸素が枯渇すると水面に上がって空気を飲み込み、後腸の血管網を通じて酸素を体内に取り込むという驚異の生態を持っています。

「ドジョウがお尻の穴で非常用呼吸を行えるなら、同じ脊椎動物である哺乳類にも潜在的な予備能力があるのではないか?」

実験室の挑戦:気体から高酸素液体へ

お尻から呼吸させるというアイデアは一見ジョークのようですが、検証データは極めて本格的でした。

  • 第1段階(酸素ガス投与): 酸素ガスを直腸から注入すると呼吸不全マウスの延命に成功。しかし十分な酸素を拡散させるには腸粘膜を事前に擦過する必要があり、人間への応用にはリスクが高すぎました。
  • ブレイクスルー(液体パーフルオロカーボン): チームは莫大な気体を溶かし込める生体適合性液体「パーフルオロデカリン」に着目。高濃度酸素を溶かした液体を注腸したところ、無傷の健康な腸壁から毛細血管へとスムーズに酸素が拡散しました。
  • 劇的な実験結果: 致死的な低酸素状態(動脈血酸素飽和度50%未満)に陥ったブタに投与したところ、わずか数分で酸素飽和度が健康基準値の90%以上に回復。チアノーゼが消え、心停止の危機から見事に生還したのです。

パーフルオロデカリンとは?

ジェームズ・キャメロン監督の名作SF映画『アビス』(1989年)で、深海ダイバーがピンク色の液体を満たしたヘルメットで呼吸するシーンを覚えている方も多いでしょう。武部教授の着想の素晴らしさは「繊細な肺に液体を入れる危険を冒すくらいなら、吸収力が高く安全な下部消化管を使えばいい」という逆転の発想にありました。

イグ・ノーベル賞の笑いから真の救命医療へ

2024年秋、武部教授らはMITで開催された授賞式でイグ・ノーベル生理学賞を受賞しました。「人々を笑わせ、そして考えさせる研究」に贈られる栄誉です。

メディアでは「お尻呼吸」として面白おかしく報じられましたが、集中治療の専門家たちはその計り知れない臨床価値に注目しました。パンデミック下で人工呼吸器や人工心肺装置(ECMO)が世界的に不足した際、大腿動静脈への太いカテーテル挿入を伴うECMOは高度な外科技術を要し、血栓や脳出血のリスクも伴います。

一方、EVA法は浣腸と同じ要領で投与できるため外科手術が不要。救急車内や災害時の野戦病院でも数分で開始できるという、圧倒的な利点があります。

ヒト第1相安全性試験を無事クリア!

動物での有効性確認に続き、健常な成人ボランティアを対象にしたヒト第1相臨床試験が実施されました。

酸素化パーフルオロ液体の直腸内投与において、重篤な副作用や全身性の毒性は一切認められず、腸管への悪影響もないことが確認されました。これにより、実用化に向けた最大の関門であった安全性のハードルを突破したことになります。

まとめ:進化が授けてくれた予備システム

私たちは「肺は息をする場所、胃腸は食べ物を消化する場所」と決めつけがちです。しかし生物の進化史を紐解けば、生き残るために器官を柔軟に使い回す知恵に満ち溢れています。

次に階段を駆け上がって息が切れたときは、思い出してみてください。あなたの身体の奥底には、太古のドジョウから受け継がれた「最後の切り札」が静かに眠っているということを。

AI Curated AIにより自動生成・翻訳された記事です。重要な情報は一次情報源をご確認ください。
免責事項

この記事を共有する

こちらもおすすめ

#科学 #医学 #イグノーベル賞 #生物学 #臨床試験 #おもしろ科学